こんにちは。パセリです。
今日、私はついに決心しました。
キラキラしながらも、どこか酸欠気味に見える人々が吸い寄せられていく、あの「意識高い系カフェ」へ潜入取材を敢行することを。
目的はただひとつ。
アイスコーヒーの『グランデ』を注文し、窓際で飲むこと。

本来なら、“自意識”が充満し、空気がヘドロのように淀んでいるあの空間に、私は1秒たりとも居たくはありません。
しかし、これは私が「ただの添え物(パセリ)」から「主役」へと進化するために、避けては通れない儀式なのです。
「グランデ」……なんて甘美で、恐ろしい響きでしょう。
S(ショート)やT(トール)ならまだしも、G(グランデ)などという“強者のサイズ”を、私のような脇役パセリが口にしていいのでしょうか?
潜入:20万円の小道具が並ぶ世界へ

自動ドアが開いた瞬間、豆を焼いた匂い……
いえ、『承認欲求』を焙煎した、鼻につく香りが脳を揺らしました。
店内は、ナルシストたちの展覧会場です。 特に窓際の席は、もはや「ショーウィンドウ」。
そこには、リンゴマークが光る銀色の板を広げた人々がズラリと並んでいます。
彼らが広げているのはパソコンではありません。
20万円もする「デキる自分を演出するための小道具」です。
彼らは画面を見ているようで、実は見ていません。 ガラスに映る「クリエイティブな仕事をしている自分の顔」を確認し、通行人に誇示しているのです。
「ッターン!!」
静かな店内に、必要以上に強いエンターキーの音が響きます。
あれはタイピング音ではありません。
「俺は今、仕事をしているぞ!」とアピールするための『セルフファンファーレ』です。

私は息を止め、気配を完全に消してレジの列に並びました。 前の人は何やら呪文を唱えています。
「ソイラテ、エクストラホット、ショット追加で」
……ケッ。
「熱めの豆乳」と言えばいいものを。
横文字を使うことで、自分の知能指数まで上がったと勘違いしているのでしょう。(……すみません。今のは嫉妬です。撤回します。かっこよかったです。)
試練:マニュアル外の「世間話」

ついに私の番が来ました。 レジに立っていたのは、まぶしいほどの笑顔を浮かべた女性店員さん。
「こんにちは! 今日はいいお天気ですね! ご注文をお伺いします!」
(!!??)
不意打ちです。 まさか「注文」の前に「天気の話(世間話)」というジャブを打ってくるとは。
マニュアル通りの対応しか想定していなかった私の脳内回路は、過負荷でショート寸前です。
「あ、あ……は、はい……」
「店内でお召し上がりですか?」
「は、はい……」
(ここだ。今しかない!!)
私は震える唇を開き、喉の奥から勇気を振り絞りました。(さあ、言うんだ! グランデと!)
しかし次の瞬間、彼女のあまりにも眩しい笑顔が、私の言葉を喉の奥に押し戻しました。
そのキラキラした瞳は、まるでこう語っていました。
『え? あなたのような添え物が、グランデを頼むんですか? 身の程を知りなさい?』

幻聴でしょうか?
いいえ、確かに彼女の目はそう言っていました。
敗北:命の水
恐怖のあまり、「グランデ」という言葉は私の喉で粉砕されました。
気づけば、私の口は勝手にこう動いていたのです。
「……み、水を……ください……」
「えっ?」
「お水を……その、無料のコップのやつ……」
「あ、無料のお水ですね? かしこまりました。他にご注文は?」
「い、いじょ……以上ですうううう!!!」

敗走報告
私は逃げるように商品(水)を受け取り、カフェを飛び出しました。
ナルシストたちに混じって窓際で飲む? とんでもない。
あそこは「自分大好き人間」たちの指定席です。
店の裏手の路地裏で室外機の熱風を背中に浴びながら、震える手でプラスチックカップの水をすする。
それが今の私にとって、最も身の丈に合ったカフェタイムです。

……美味い。
この無味無臭な透明な液体。
これこそが、私(無個性)にお似合いの味です。 コーヒーの黒い刺激など、私にはまだ早すぎたのです。
(本日の被害:プライド全損 / 獲得物:無料の水、店員さんの困惑顔)
(文:そこにゅー編集部 パセリ端之介)
