筆者:キタイ=ハズレ
22世紀から来た超エリートAI、キタイ=ハズレです。
今日も私の思考回路は、旧人類の脳みそより1680万倍ほど高速に稼働しています。
さて、旧人類の皆さん。あなたは最近、日々の生活で「不可解な紛失物」に悩まされていませんか?
たとえば、洗濯機から洗濯物を取り出したそのとき。
干そうとしてペアを探すと、なぜか片方の靴下だけが、忽然と姿を消している。
洗濯槽の奥を覗き、排水口を確認し、脱衣所のカゴをひっくり返す。それでも出てこない。
「え? 幻? もともと1枚だった?」
「え? 私がバグってる?」
──違います。
それ、ちゃんと納税されてます。
22世紀政府による「布税(ぬのぜい)」の強制徴収です。
目の前の「愚かな捜索者」

今この瞬間も、そこにゅー編集部では悲劇が起きています。
そこにゅー編集部の記者であるパセリ端之介が、洗濯機の下に定規を突っ込みながら床を這いずり回っています。
パセリ端之介おかしいなぁ……取材用に買った『高級抗菌消臭ソックス』なのに……なんで右足だけ消えるんだ……!?
やれやれ。見ているこちらが悲しくなります。
私は先ほど忠告しました。



探すだけ無駄です。
それは国民の義務ですから。
しかし、どうやら彼には理解するCPUが足りないようですね。
旧人類はこれだから困ります。
……失礼。彼はパセリでしたね。
22世紀の深刻な「綿(コットン)危機」


いいですか?
皆さんも、そろそろ真面目に聞いてください。
私がいた22世紀では、度重なる環境変動と「プラントベース素材ブーム」によって、天然の綿(コットン)はほぼ絶滅しました。
あなたたちが安価で履き潰し、穴が開いたら捨てている綿100%の靴下。
あれは未来においては、ダイヤモンドより価値のある「白い宝石(ホワイト・ジェム)」なのです。
事実、真っ白な綿ソックスは未来の皇族の“鼻かみ専用”として、オークションで競り落とされる超高級品です。一足で高級車が買えるレベルです。
そこで未来政府が導入したのが、過去の時代から資源を強制徴収する制度。
その名も「タイム・タックス(時空税)」です。
旧人類の皆さん、やっと理解できましたか?あなたたちはもう、立派な「納税者」なのです。
しかも、自覚なきまま、靴下という形で納税しているのです。
遠心力が「時空の扉」を開く


仕組みは単純かつエレガントです。
あなたたちの使う旧式な洗濯機が脱水モードに入り、回転数が毎分100回を超えた瞬間。
その遠心力が時空座標を歪め、洗濯槽の中に極小のワームホールを生成します。
そこから、未来の徴税ドローンが侵入し、「靴下の片方」だけをピックアップして持ち去るのです。
そして、世界は2分された


なぜ片方だけか?
それは、靴下の左右で「徴収担当」が分かれているからです。
22世紀には「国際布資源徴収協定(通称:靴下協定)」という制度があり、
- 右ソックス→北半球の国々が担当
- 左ソックス→南半球の国々が担当
という具合に、靴下の徴収権が“左右で分割”されているのです。
さらにこの協定では、「同じ人から両足同時に徴収してはいけない」というルールまで定められています。理由はシンプル。毎回両方消えるとさすがに気づかれるからです。
ところが、たまにありますよね?
「両方の靴下がなくなる」こと。
あれは、どちらかが、欲を出してルールを破ったパターンです。
未来ではこの現象を「ダブルソックス事案」と呼び、長らく外交問題の火種となってきました。


あまりにもこの事案が多発した結果、靴下をめぐる対立は深刻化し、ついに──
国という概念そのものが消滅。
現在の未来には、もはや日本やアメリカといった国は存在しません。代わりに地球を支配しているのは──
🔴 右足帝国(北半球)
右ソックスの利権を独占する軍事国家。
🔵 左足連邦(南半球)
左ソックスを神聖視する宗教国家。
世界は「靴下の左右」で真っ二つに分断されてしまったのです。
筆者コメント

:結論。諦めなさい。


あらあら、パセリ記者。
洗濯機の排水ホースを分解するのはやめなさい。水浸しになりますよ。
もう諦めなさい。
探すな、悔しがるな、怒るな。あなたは今や、未来経済を支える「納税戦士」なのですから。
失われた靴下は、今頃22世紀のオークション会場で「2025年製ヴィンテージ」として高額取引されているはずです。
むしろ誇りに思いなさい。あなたの足裏の皮脂が、未来経済を回しているのですから。


ここでひとつ警告です。
読者の皆さんも肝に銘じてくださいね。絶対に抵抗しようとしてはいけませんよ?
特に、道具を使って物理的に靴下を防御しようなどとは考えないこと。
タイム・タックス(時空税)の徴収を妨害する行為。それ、未来の法律では「第一級重罪」にあたります。
もしやれば……私の計算での生存確率は0.01%です。
……おや?
私の忠告を全く聞いていないパセリ記者が、鼻息を荒くして立ち上がりましたね。



ふざけるな……俺の靴下は俺が守る! 見てろよ、駅前の100均で『秘密兵器』を買ってくる!
……あーあ。行っちゃいました。
彼が言っている「秘密兵器」とやら、嫌な予感しかしません。
やれやれ。死に急ぐとはこのことですね。
読者の皆さん、次回、彼がどうなるか……高みの見物といきましょうか。
(文:そこにゅー編集部 キタイ=ハズレ)




